Signed-off-by: Miyu Kawaii <trigger114514xx@gmail.com>
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Miyu Kawaii 1 year ago
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},
{
"message": "悩んでなかったら、多分喜んで休んでいただろう。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「部屋にいてもモヤモヤする一方で……これならいつも通りにした方がスッキリすると思って」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「こんな時間にとは思ったんですが……結局やっちゃいました」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「それに……」"
},
{
"message": "不意に、朝武さんの視線が、祀ったばかりの憑代に向けられる。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「本当にこれで終わったんだという実感がどうしても湧かなくてつい見に来てしまうんです……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「……そっか」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「あんなに呪いを解こうと頑張っていたのに、いざ解けたら戸惑うなんて……」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「なんだか変な感じです」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「確かにそうかも」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「って、まだ完全に解けたかどうかはわからないんですよね」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「なんだかすっかり気が緩んでしまってますね……私……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「仕方ないよ。少なくとも一区切りはついたんだから」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それに、ムラサメちゃんもそれほど深刻には見てない。本当に言葉通り『念のため』ってことなんだと思う」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「………。有地さん」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「ん? なに?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「憑代のこと……その……ありがとうございます。有地さんには、沢山お世話になりました」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「それと、失礼なこともいっぱい言いました。本当にすみません」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それも仕方ない。言われるだけの理由があったことだから」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「でもですね、今回のことは有地さんがいなければ――」"
},
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"name": "将臣",
"message": "「はい、ストップ」"
},
{
"message": "手の平を突き出して、朝武さんの言葉を遮った。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それは俺だけじゃない。常陸さんがいなくてもダメだったよ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「ムラサメちゃんやレナさん、祖父ちゃんや安晴さん、駒川さんだって」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「誰か1人でもいなかったら、こんな風にはならなかったと思う」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「それはもちろん、他の方にしても感謝しています」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それに、そこには朝武さんも含まれてる」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「え? いや、私が含まれると言いますか、むしろ私が迷惑の中心と言いますか……」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「とにかくお礼を言われる立場ではないと思います」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「んー……」"
},
{
"message": "ここで『ありがとう』と言うのは『呪いになってくれてありがとう』みたいになるか。"
},
{
"message": "だったら……なんて言えばいいんだろう? 上手く言葉が見つからない。"
},
{
"message": "にしても――"
},
{
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"message": "「……本当、真面目だよね」"
},
{
"message": "まあ、そこが朝武さんのいいところでもあるんだろうけど。"
},
{
"message": "というか、別に気を遣って言ったわけじゃないんだけどな。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「たまには、軽く受け流してもいいんじゃないかな?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「そういう態度は相手に失礼だと思います」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それはもちろん、常にそんな態度なら問題があるだろうけどさ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「朝武さんにだって、気を抜いて話をしたいときぐらいあるんじゃない? 他愛ない愚痴とかさ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「………」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「何かあるなら話を聞くよ、俺でよければだけど」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「どうして、私に何かあると思ったんですか?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「まー、話しててなんとなく? いつもと少し違う気がしたから」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……むぅ……なんか……見透かされてるみたいで悔しいです」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「あはは、なにそれ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「とにかく、愚痴でもなんでも話ぐらいなら俺が聞くよ?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「有地さん……」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「それはアレですか? 社交辞令的な感じで、軽く受け流した方がいいんでしょうか?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「このタイミングではないよ!」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「あはは、冗談です。あまりに悔しかったから、せめてもの意趣返しです」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「………」"
},
{
"message": "まさか、朝武さんが冗談を言うなんて……。"
},
{
"message": "本人は戸惑ってるって言ってたけど、実は浮かれてるんじゃないだろうか?"
},
{
"message": "さっきの笑顔もいつもの雰囲気とは違っていた。"
},
{
"message": "いつもの凛とした雰囲気もいいけど……こういう無邪気な感じも可愛いな。"
},
{
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"message": "「でも、そうですね。じゃあ……頼らせてもらってもいいですか?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「お、俺で力になれるなら」"
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{
"message": "今までよりも魅力的に見える彼女の表情に、思わず一瞬息を呑んでしまった。"
},
{
"message": "境内の階段に2人で腰かける。"
},
{
"message": "……流れとはいえ、女の子と2人っきり。"
},
{
"message": "もうすっかり夜で、周りには誰もいない。"
},
{
"message": "なんか胸がドキドキというか……緊張してきてしまうな。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それで、愚痴って?」"
},
{
"message": "祟り神の件が一段落して、むしろ落ち着いてもいいぐらいなのに?"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「正確には愚痴ではないんですが……」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「呪いのこと、実感がわかなくて、気持ちの切り替えができていないのは、さっき言った通りです」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「うん」"
},
{
"message": "何年も……いや、数百年続く一族の呪いだ。"
},
{
"message": "きっと幼い頃から、朝武さんを縛っていたんだろう。"
},
{
"message": "解放されたと言葉で聞かされても、実感なんて湧くわけがない。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「もう少し時間が経てば、自然と受け入れるようになるんじゃない?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「そうだとは思うんですが……その……」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「私が困っているのは、茉子やお父さんたちの方が嬉しそうにしていることなんです」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「………」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「あっ! 勘違いしないで下さいね、私だって嬉しいと思ってはいるんですよ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「ただ……私より周りの方が盛り上がっているようで……ですから、えっと……なんて言えばいいんだろう……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「温度差みたいなものを感じてるってこと?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「そうっ! それです! そのせいで余計に戸惑ってしまって」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「それに、この欠片のことがもっと早くにわかっていたら、もしかしたらお母さんにも……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「………」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「考えても仕方ないことだとはわかっているんです。でもやっぱり、素直に喜べない部分もあったりして……」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「ですから、えっと、その……すみません。だからどうとも言えない、取り留めのない話ですね」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「でもこんな話を茉子やお父さんにすると……要らぬ不安を煽ってしまいそうで」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「確かに」"
},
{
"message": "これは、一緒にいた期間の少ない俺にだからこそ言える愚痴だろうな。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「そのせいで、モヤモヤが倍増してるような気がします」"
},
{
"message": "温度差か……。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「そうだなぁ……んー……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「朝武さんはさ、やりたいことはないの?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「やりたいことですか?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「街に出て買い物をしたい、とか」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「別にこの町でも買い物は十分できていますよ?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「いや、たとえば。買い物じゃなくてもいいんだ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「些細なことでもいいからさ、これから先の事に期待を持てれば、今感じてるような温度差はなくなるかもしれない」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「安晴さんや常陸さんは、呪いから解放された朝武さんが自由になることに期待をしてるんじゃないかな?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「でも私は、気持ちの切り替えができなくて、先の事を考えられてない」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「だから、置いてけぼりのように感じるのかも。ってのが、俺の勝手な予想」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「言われてみると思い当たる節が……あるかもしれません」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「やりたいこと……やりたいこと、ですかぁ……いつの間にか、呪いを解くことが第一になっていましたから」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「そっか……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「まあ、アレだ。少し考える時間を取ってみるといいよ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……そうかもしれませんね」"
},
{
"message": "不意に、顔を上げて夜空を見上げる朝武さん。"
},
{
"message": "その表情は考え込むというよりも、思いを馳せているようだった。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「漠然としててもいいし、些細なことでもいい」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「とにかく、朝武さんが望むことを、してみるのがいいんじゃないかな」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「今日はもう休んだら? こういう時は、お風呂に入って疲れをとるのが一番だよ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「ちなみに参考までに、有地さんはやりたいことってあるんですか?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「俺?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「やっぱり、色々ありますよね」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「穂織に縛られる理由がなくなったんですから。都会に戻って楽しみたいこととか」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それは……」"
},
{
"message": "ちょうどそのことに悩んで、竹刀を振っていたんだ。"
},
{
"message": "どう返事をするかな……。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「せっかく転校までしたんだから、卒業まではここにいようかなって思ってる」"
},
{
"message": "………。"
},
{
"message": "あれ? 頭では悩んでいたはずなのに……口から自然に、するっと言葉が出ていた。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「何度も転校するのは面倒だから」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それに今の生活も好きだよ、俺は」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「そうですか……よかった。ちょっと安心しました」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「え? 安心って、何を……?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「有地さんがいなくなったら寂しいですから。だって有地さんは、私にとって――」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「……とって?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「――初めてできた友達ですから」"
},
{
"message": "知ってた。そこら辺で落ち着くだろうと思ってた。"
},
{
"message": "とはいえ、柔らかな笑みを浮かべる朝武さんを見ていると……思わず俺も笑みをこぼしていた。"
},
{
"message": "なによりもホッとした。"
},
{
"message": "こんな表情をしているということは、ここに残っていいと受け入れてもらえたんだ。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「俺としては嬉しいけど、常陸さんが悲しむんじゃないの? 俺が初めての友達だと」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「別に茉子のことを軽視するわけじゃありません。でも子供の頃からずっと一緒に居ましたから」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「茉子は友達というよりも……もっと近い存在……世話焼きな妹みたいな感じです」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「……世話焼きな姉じゃなく?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「どういう意味ですか、私の方が子供っぽいって言いたいんですか?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「んー……」"
},
{
"message": "俺からすると正直なところ、そっちの方がしっくりくる。"
},
{
"message": "でもこれを口にすると、怒らせてしまいそうだな。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「そうだね。子供の頃からずっと一緒なら、姉妹みたいに感じるものかもね」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「今、誤魔化しましたね? 話をそらそうとしてますよね?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「気のせい気のせい」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……ジー……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「………」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「まあ、いいですけどっ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「とにかく男の人とこんなに仲良くなるなんて初めてですから。有地さんは大切な友達ですよ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「有地さんには感謝してもしきれませんね。いつも助けてもらっています」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「もし、叢雨丸に選ばれたのが有地さんじゃなかったら……私はまだ、こんなこと考えていなかったと思います」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「………」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「ぷっ、あはは」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「な、なんで笑うんです? 何かおかしなこと言いました?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「いや、ゴメン。でも、なんか仰々しかったから、つい」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「俺なんて行き当たりばったりで、必死にもがいてただけ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「たまたま偶然、こういう結果になっただけだよ。大した事はしてないのに、大げさすぎる」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「それでも私は……本当に、感謝してるんですっ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「あー、笑っちゃってゴメン。決してバカにしたつもりはないんだよ、本当に」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「なんか俺になんて不釣り合いだと思ってさ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「………」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「それに、俺に言わせればそれは、朝武さんが頑張った証だよ。負けずに頑張ったからこそ手に入ったんだよ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「俺がここで叢雨丸を抜いたのは運命だったのかもしれない」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「でもそれを引き寄せたのは、朝武さんの頑張りだったんじゃないかな。だから……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「――ああ、そうか。こう言えばよかったんだ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「今まで頑張ったね。お疲れ様、朝武さん」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「………」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「………」"
},
{
"message": "俺の言葉に、朝武さんは固まってしまった。"
},
{
"message": "なんか……あまり嬉しそうじゃない。"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「あー……ゴメン。やっぱりそぐわないか、今のは」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「うぇ? あ、いや、その……ッッ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「しかも上から目線で、何様って感じで……そんなつもりはなかったんだけど」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「い、いえっ、そうじゃないんです。嬉しくないということではなくて、あの……ですね」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「そんなことを言われると思っていなかったので……返答に困ると言いますか反応に困ると言いますかリアクションに困ると言いますか」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「と、とりあえず、ありがとうございます……?」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「また疑問形だ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「だ、だって……だって……ぁーぅー……ッッ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「そこまで困らなくてもいいのに」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「変な返答をしたら、申し訳ないじゃないですか。わざわざ気遣ってもらっているのに……」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「気遣って言ったわけじゃなくて、俺の本心なんだけどな」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「それを言うなら、私だって本心ですよ」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「うん、ありがとう。そう言ってもらえて、俺も嬉しいよ」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「………」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……わかってない……全然わかってません」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「朝武さん?」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「本当、有地さんは失礼です」"
},
{
"name": "将臣",
"message": "「何故だ……普通にお礼を言っただけなのに……」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……もういいです。とにかく今日は話を聞いてくれてありがとうございました。少しスッキリしました」"
},
{
"message": "そう言って、朝武さんは歩き出した。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……はぁぁ……気持ちいい……」"
},
{
"message": "やっぱり身体を動かした後のお風呂は気持ちいい。"
},
{
"message": "それにやっぱり、祟り神という漠然とした不安も消えたからかもしれない。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「やりたいこと……」"
},
{
"message": "今までに考えたことがなかったわけじゃない。"
},
{
"message": "でも、具体的なことは何も考えてなかった。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「やりたいこと、かぁ……」"
},
{
"message": "子供の頃の私にはしたいことがあった。"
},
{
"message": "お母さんに伝えたいことがあった。"
},
{
"message": "でも、お母さんはもういない……。それは悔いていても仕方ない。"
},
{
"message": "今の私の、やりたいこと……。"
},
{
"message": "考えたことがなかった。"
},
{
"message": "呪いを解くこと、呪いさえ解ければ。"
},
{
"message": "ずっとそんなことを考えていたけど、その先の事は全く。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「今なら、伝えることができたのかな……? お母さん……」"
},
{
"message": "お母さんには、もう伝えることはできないけれど。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……ううん、やっぱり伝えることは、私にはまだできないかも」"
},
{
"message": "だって、私の嬉しさは全然伝わっていなかった。"
},
{
"message": "有地さんには、軽く受け流されてしまった。"
},
{
"message": "私はこんなにも感謝をしているというのに……。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……悔しい……」"
},
{
"message": "私が今感じているこの気持ちを、どうすれば伝えられるんだろう?"
},
{
"message": "なんて言葉を口にすれば、伝わるんだろう……この嬉しさが……。"
},
{
"message": "少しでも、この嬉しさを伝えたいのに……私にはその術がない。"
},
{
"message": "それが歯がゆくて……悔しくて……。"
},
{
"message": "どうしても、お母さんのことを思い出してしまう。"
},
{
"message": "やっぱり……私には、無理なのかな……?"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「……でも、私だけの問題? 大体、人が真面目に本心を打ち明けたのに、笑うなんて失礼です」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「本当……失礼な人……」"
},
{
"message": "でも……初めて言われた気がした。"
},
{
"message": "“可哀想”とか“気の毒”とか、そんな同情じゃない。"
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{
"message": "“頑張ったね”って……認めてくれるような言葉。"
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{
"message": "驚くぐらい、スッと胸に染み込んで……。"
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{
"name": "芳乃",
"message": "「なにか……なんでもいいから、ほんの一欠片だけでも伝えられれば」"
},
{
"message": "そうしたら、何かが変わるかもしれない。"
},
{
"message": "この嬉しさを伝えたい……。それが、今私が一番やりたいこと……。"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「………」"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「もしもし、茉子?」"
},
{
"name": "茉子",
"message": "『こんな時間にどうされたんですか、芳乃様?』"
},
{
"name": "芳乃",
"message": "「ちょっと……お願いがあるの」"
},
{
"name": "茉子",
"message": "『珍しいですね。わざわざ電話までして。一体何でしょう?』"
}
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